晴天の霹靂

びっくりしました

お正月の赤ワインと『わが青春のマリアンヌ』

 『わが青春のマリアンヌ』を見ました。

先日ALFEEの「メリーアン」のことを色々書いていたときに調べてたら、今は動画サイトでも日本語字幕のものが視聴できるようになっていたのです。

 ドイツのすごく冷たい湖のこちら側には寄宿学校があるんです。

寄宿学校っていっても孤児院みたいなもんだ、って語り手が言ってるんだからたぶん良家の子息たちで何らかの事情で親元で邪魔にされた未成年者が集まってるんでしょう。結構優雅に暮らしています。授業は一日に2,3時間であとは暇を持て余して18にもなって半ズボンで森の中を駆けまわったり秘密基地を作って謎の結社を作ったりしている始末なので、見てるとちょっと不安になりますが、まあ森しかないのでさほどグレようもない。ただみんななんとなく、親の愛に飢え、女性のやさしさに飢え、みたいな雰囲気はある。

 

湖の対岸にはボロボロのお屋敷。幽霊屋敷という噂もあるところなので少年たちは度胸試しに行ってドーベルマンに追われてあっさり逃げ帰ってきたりしてるわけです。

そこで登場した南米から来た動物に愛される不思議な転入生のヴァンサンだけが、お屋敷に侵入することに成功し「めっちゃ綺麗な女性がいた」なんてぼーっとしながら帰ってきます。少年たちはどうにも妙な気になって霧に包まれた向こう岸ばかり気にするようになる。

そんな孤児院に、どういうわけか突如校長の親戚のツンデレ美少女リーザが放り込まれます、本当に何考えてるんだ校長。しかし、みんな湖ばかり見てるからあんまりちやほやされない。リーザったらしまいには「ヴァンサン、はい!」とか言ってTPOかまわずやたら全裸になったりし始めるんですが、それでもまったく相手にされず、リーザはリーザで追い込まれていくんです。なにそれ。

 

とうとうヴァンサンは湖の向こうの謎の美女マリアンヌから「助けて」と書いた手紙を受け取って決死の覚悟で再び城にしのびこみます。マリアンヌいわく「自分を幽閉しているこの城の城主と今夜結婚させられる、一緒に逃げて」とのこと。しかし当の城主がヴァンサンに説明したことには、マリアンヌは最初の結婚に失敗してから正気をうしなって、おかしな妄想を抱いている。あんたはここに居ちゃいけない、などと言われて追い出されてしまいます。

翌朝、やっぱり自分はマリアンヌのほうを信じるというので再び戻ったヴァンサンは、もぬけの殻となって、ただマリアンヌの肖像だけがある城を見るんでした。

と言う話。

 

ヴァンサンはヴァンサンで母親に捨てられたという思いと、大好きだった父親に死なれ、母はいけすかない男と再婚しようとするのが許せない、というハムレットみたいな精神状態なんです。ハムレットといえば、やっぱり亡霊を見るんですね。

マリアンヌが亡霊なのかどうかはよくわからないですが、体力ある若者に精神的な負荷をかけて極端な精神状態にしていくとちょっと不思議なものを見がちなのは間違いない。不思議っちゃあ不思議だけど、不思議じゃないちゃあ不思議じゃない、というくらいの、誰にでも思い当たる青春の姿であることがたくさんのフォロー作品を生んだ理由なんでしょう。

 

『わが青春のマリアンヌ』を見てからALFEEの『メリーアン』をあらためて聞くと、なるほどこれは大変によくできているな、と感心します。こうなってくると私も、ちょっと極端な精神状態になって年甲斐もなく不思議な目にあってみたい、などという気にちょっとなってくるわけです。

 

普段お酒飲みませんから、お正月に黒豆を煮た赤ワインが台所にまだほとんど一本残っているのを、半分水で割ってからレンチンでホットワインにしまして、「よーし、ひさしぶりの酒であるぞ」なんてちょっと飲んでみるんです。欧米に行くとそれは酒でなく子供の風邪薬だろ、くらい言われそうなシロモノですが、元が飲める性質じゃないので十分論理的思考がぐらつきます。

そこで『メリーアン』からはじめて中村中の『友達の詩』なんか聞いていくと、「極端な状態に向かうための踏み分け道」みたいのは、ちゃんと見えてはくるんですね。このままもう少し自己陶酔の道を突き進んでいけば面白くなるぞ、この道の先にはちゃんと使っていない城があって私にもマリアンヌがいる、とは思うんですが、それ以上に「キャパを超えると明日があんまり快適じゃない」という思いが先に立ち、冷たい湖には飛び込まずに引き返してしまうもんですね。

メリーアン Wont't You Stay For Me!