晴天の霹靂

びっくりしました

『パラサイト』の父、『万引き家族』の父。

先日『パラサイト 半地下の家族』を見てずいぶん興に乗ったので、この流れでこれまでずっと避けてきた例のアレをついに鑑賞しました。

2018年のパルムドール受賞のときから、いずれは見ることになるだろうと思いつつずっと避けてきた『万引き家族』。だって怖いんだもん。(どっちもネタバレします)


【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告

 

樹木希林が居て安藤サクラがいてリリーフランキーがいるという、それら顔の持つ圧力に2時間耐えられる自信なんて全然ないんです。しかもその中になぜか松岡茉優がまじってるという非現実感も本当に本当に恐ろしい。

 

などと思いながらみましたらだいたい思った通りの方向に打ちのめされました。わかりすぎる。誰も掃除をしていない部屋の、寝そべったら背中にネギがくっついちゃうような堆積物とか、冷蔵庫の扉の黄ばみが脂でぺたぺたした感じとか、謎の微生物の培養所と化している風呂場とか。

 

そんな中でも、しかし素麺はおいしそうだな。氷水に漬けて出すとめんつゆが薄くなるから水切ってほしいところではなるが、安藤サクラがザバザバ食べてるとあれこそが正しいように見えてくるな、とか。しかし素麺が口に入ったままちゅーをすると、今後一生、素麺を食べるたびに思い出してしまいそうだからカンベンしてくれないかな、とか。そういう意味で隅から隅まで全部生々しくてつらかった。

 

2018年のパルムドールが『万引き家族』、2019年が『パラサイト 半地下の家族』ということで、やっぱりなんとなく比較するような意識を持ってみてしまうのだけど、そうやってみると父親の役回りがすごく違って見える。

捨てられる父リリー・フランキーと、絶対に捨てられない父ソン・ガンホ

 

リリー・フランキーは、痩せた尻から心細い毛髪まで本当に幼稚で計画性のない性格が二本足で歩いているような感じが目に焼き付いて離れないダメお父さんである。寂しいから「お父さん」と呼ばれてみたくて仕方ないんだけど、仲の良い疑似息子からはそう呼ぶのを保留されている。照れてるとかそういう話ではなくて、「好きだけど信用してだいじょうぶかな」という疑いを持ってる様子がある。

疑惑がもやもや高まったところでこの息子は、おそらくは本人もあまりロジックは意識しないままに警察に捕まるということをやってみる。いろいろグレーだった疑似家族は白日の下にさらされ、解体してしまう。

家族解体のおかげで一人暮らしになった幼稚で寂しがり屋のリリーフランキーのもとに、息子は養護施設を抜け出して様子を見に来て、一つ布団で眠りながら聞く。「あの時、僕を捨てて逃げようとしたの?」ダメなリリーフランキーが答える「うん。ごめんな」。

 

……って、「ごめんな」じゃないだろっ。

と私は半ば口に出た。「いろいろ厄介な問題あったから一旦逃げて、あとで迎えにいく方法考えるつもりだったのに失敗しちゃった」くらいの言い訳を当然するもんだと思って見てたからびっくりして変な声出た。

あれは、ひとつ布団で一緒に眠りながら少年も思ったのではないか。なぜ多少の辻褄合わないところがあっても「決して見捨てたんじゃない」くらい言えないのか。どんな上っ面のものであれ、まったく一切いかなる責任を感じることもこの人には無理なのか。

そうして少年は翌朝ひとり、施設へ帰る。バスのうしろを少年の名前を呼びながら猛烈に追いかけてくるリリーフランキー。後ろ髪ひかれる想いだけど、その寂しさ、束の間の団らんは自分にとって最終的な幸せをもたらすものではないことを少年はもうわかってしまっている。 

 

それに比べて、半地下に住む韓国のピエール瀧ことソン・ガンホはとにかく一家の長だ。

『パラサイト』を見ていると韓国の家父長制は日本よりだいぶ強固であることがわかる。実の子供でも父親に対しては丁寧語で話すし、礼節など守りようもないほど狭い住宅に住んでも親の前で煙草を吸うこともない。岩のように大きな顔をしてとにかく抜群の存在感でそこにいる。家族は折にふれて父親に聞く「計画はなに?」「次の計画は?」。とにかく家族の旗を振るべき人はあの大きな顔のお父さんなのだ。

 

だけどソン・ガンホはあるときあまりの不運にぷちっと切れて振るべき旗を放り出す。「もう計画なんかない。どうせ思い通りにいかない。」

そんな丸投げに直面しても、この家の息子はお父さんを捨てない。ついに隔離されてしまったお父さんを「いつか金持ちになって迎えにいく」という計画を立てる(たぶん何百年かけても難しい)。

 

息子がずっと大事に抱えていた、あの意味不明に重くて邪魔な石はいったいなんだったのか。あの石を、凶器として持ち歩いていたのか、リスペクトおじさんへのプレゼントとして持ってきたのか、によって映画の見方がだいぶ変わるなとは思っていたし、そのへんは正直考えてもよくわからない。

でも「万引き家族」の捨てられたリリーフランキーを見た後、捨てられなかったソン・ガンホを見ると、息子が「僕にくっついてきて離れないんです」と表現したあの重い石は、「家族」だったのではないかというふうにも見えてくる。

 

そんな風に考えると、少なくとも家族からわが身を無理に引きはがしてでも自分の生き方を切り開く可能性の持てた『万引き家族』の方がだいぶ希望のある作品だったのではないかという気がしてくる。

しかし、見た後の心のダメージは『パラサイト』の方がだいぶ少ないのは、『パラサイト』のそもそもコントタッチな舞台設定のおかげなのか、言葉や文化背景が違う国の映画だから少し生生しさから解放されるせいなのか。どっちだ。

 

万引き家族

万引き家族

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