晴天の霹靂

びっくりしました

ネタバレ『パラサイト 半地下の家族』~蓋をして水に流したその先は

あまりにもあちこちで評判がいいので『パラサイト 半地下の家族』観てきました。

公開からそこそこ時間のたった、ある程度小規模かつ地味なテーマの韓国映画でありながらほとんど満員の客入りでびっくりしました。

この後わりと雑にネタバレしますが、何も知らずに能天気な気分で見に行った方が絶対楽しいです。


第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編

 

チャーミングなコメディだなと思ってげらげら笑ってみていたら、進化系キャラ「リスペクトおじさん」が登場したあたりで、このチャーミングで笑える世界には出口がないってことに気付き、どうしようどうなるのと思っていたらそのまま終わるという怒涛の後半でした。

 

「いや、しかしそれはあんまりな」と思ったので鑑賞後、映画館の出口にあるロッテリアに入ってコーヒーを飲みながら「いや、ちょっと待てあれはどうすればよかったんだ?」とひとしきり考えこんではみたものの、やっぱりどの時点においてもどうしようもなかった。

まさかあの、やっと手に入れた束の間の家族団らんのひと時、清潔で安全な居場所での水入らずの酒盛りをやめろと言えない以上は。

 

印象深かったのは、貧乏ファミリーが、勤め先の豪邸でさんざんな目に合い、命からがら逃げ帰ってみたら今度は自分の家が大雨による氾濫でほぼ水没していたという笑っちゃうほど悲惨なシーン。

いつも頭がよくて判断の冷静な妹が、どんどん水位の上がっていく家の中で、ボコボコ下水の吹き出す便器に坐り、天井に隠していた煙草を取り出しておもむろに一服します。喫煙者が絶望すると実際こうするだろうな、と容易に予想でき、煙草の味まで伝わってくるような場面でした。

なぜあんな妙なところに煙草をしまってあるかと言えば、おそらくは喫煙者であることは家族に内緒なんでしょう。あれほど狭い空間で喫煙者であることを隠すのは相当な苦労に違いないが、それでも何らかの事情でずっと隠していたものを、あの瞬間に一気にどうでもよくなったのかもしれない。彼女の中でなにかが「ぶちっ」と具体的な音を立てて切れたのだと思うと、一切余計なことをしないパク・ソダムの演技ごと本当に身に染みます。またいい吸いっぷりなのですよ。

 

劇中、地下の住空間の象徴としての「むき出しのトイレ」があちこちに出てきます。トイレは基本的には「臭いものを水に流してなかったことにするための装置」ですが、水に流したところで汚物はこの世界からなくなってるわけではない。どこかへ流れていてそこで匂いやら湿気やら澱んでしみ込むのですよね。

人は知りたいこと以外は知りたくないから、自分の家に地下があっても興味がなければ知らないままだし、トイレで流した下水の行き先もしらない。そしてときどき無邪気に、それどころか自分の側に理があるという自信すら持って「臭い」とも言う。

だけど本当にこれはいったいどうしようがあったのか。

 

ものすごい絶望と無力感の表情を目の当たりにしながらも、とはいえ「いつの日か貧乏父さんを家ごと買い取る」という発想にはやっぱり笑っちゃうほどのおかしみもある。参りました。