年末くらいからいまいち喉の調子がよろしくなく、いったん気になりだすと
「ごぼっごぼっ、う、うんっ、あ、あ、あ、あーー。ごぼっ、ぜえぜえ」
といった具合に、明らかに若者のものではない濁音の多い咳が再現なく出る。
一切風邪の症状はなく、ただ喉の調子がよくないだけなのだが、これを「加齢のせいではない」としておくためには「風邪です」と言っておかねばならぬこともあり、厄介なことだ。まさか咳まで年を取るとは思わなかった。
私が知っている中で喉の不調に最強なのは龍角散ダイレクトである。早く買いに行くべきだ、とずっと思っているのであるが、「ダイレクトは少し高いからな」などと、ついつい買いにいくのを渋ってスーパーののど飴でお茶を濁してきた結果、口の中がつねにべたべたするばかりでなかなかすっきりしないという事態が続いてしまった。
「仕方ない、龍角散ダイレクトを買いに行くか……」
そうして出向いたドラッグストアでついつい、目的のものではなくおじいちゃんが使う方の龍角散を買ってしまったのだ。
比べるとやっぱりダイレクトより安いなあと思ったのと、文字デザインを見ているうちにうっとりしてきてしまったからだ。なにしろ「龍の角の散薬」である。強そうだ。ここに「ダイレクト」などと安易なカタカナを付けてしまうのは冒涜と言っていいほどダサいのではあるまいか。
正直、龍角散の実物を見たのは初めてだった。開封したときはちょっと奇声を発してしまったくらいかわいのに驚いた。だいたい缶に入っているものはなんでも偏愛する性質ではあるが、この龍角散の質素でぺラペラのアルミ缶はまた格別のかわいらしさではないか。
蓋をあけると冗談のように小さい匙がついていて、それですくってそのままゴクっと口に入れる。
じわっと喉の奥に直接広がる爽快感においては「龍角散ダイレクト」の方が圧倒的な効果がある。
しかし、こちらの超保守派龍角散は、微粒子が口内の水分を吸収することによって喉がそれまでとは異なる緊急事態に突然直面し、おかげで今までそこにあった不快感を一気に忘れる、という意外な即効性があった。
目を白黒させ、口をパサパサさせつつ、机に飛び散った粉など拭いていると、「よくわからないが、これでいいのだ」という気がしてきて少し元気が出る。
これは、これでいいのだ。次に買うときはダイレクトを買うけど。
ラジオを聴いていると龍角散のCMをよく耳にする。「龍角散ダイレクト」は立川志の輔、「龍角散」は笑福亭鶴瓶でお馴染みだ。どういうわけかどちらも示し合わせたように悪声の人が宣伝を担っているあたりが、正直というか、誇大広告を断固拒否するというか、余計な夢は見せないというか、好感が持てるのである。
これでいいのだ。