晴天の霹靂

びっくりしました

ダーニングマッシュルーム ~フォースにバランスをもたらすものたち

どんなジャンルにおいても「直す人」が好きだ。

 

学生時代は自転車に乗って方々旅をしていたから、行く先々でどこにでも必ずいる「自転車屋さん」はちょっとした救世主だった。渋く汚れた道具がたくさん道具箱にちゃんと納めてあって手足のように自由につかう。そしてたいてい無知で困っている若者をどうにかしてあげるのが好きだ。

 

あるいは田舎に居がちな「なんでも直しちゃうおじいさん」というのもしばしばみかけた。農家の作業用なんかにわりと雑な感じで使われている古い洗濯機などが動かなくなったときに「ちょっとあそこのじいちゃんに見てもらうか」なんて、呼ばれたおじいちゃんは軽トラでやってきて「ふーん」とか言いながらドライバーで何か所かいじり、別に何をした様子もないのに洗濯機は直っている。そしておじいちゃんはお茶を飲んでちょっとしゃべって帰る。そういう人たちだ。

 

スターウォーズ新シリーズのヒロイン、レイも最初から「直す人」として登場するからあんなに魅力的に見える。はじめて会ったBB-8の曲がったアンテナをなおしてやり、ガタピシ言ってるミレニアムファルコンをありあわせの勘と道具でとりあえず修理する人。42年前の未熟な青年ルークだって、ポンコツだったC3POR2D2修理をしてやったところからすべての冒険は始まったのだ。

 

 

私も「直す人」として自分の家に場所を占めていたい願望がある。とりあえず我が家のアイロンと扇風機とキッチンタイマーは自分で直して使っているのが自慢だ。どれも分解して掃除をして戻しただけではあるが、私がいなければそこが寿命だったのだからそれでいいのだ。彼らもいつか恩返しにお姫様のホログラムを見せてくれるかもしれない。

 

事件は勇ましいジャンルでばかり起こるわけではない。生活していれば、靴下のつま先はほころび、バスタオルはあちこち薄くなり、デニムは方々穴が開く。ダーニングマッシュルームと刺し子糸という道具を手にとり、どんなものでもいったん繕ってみる。慣れてくればある程度なんでも直るようになる。

思えば祖母も常に刺し子糸を手にしている人だった。まさかこんな形で己の中に血脈を発見する日がこようとは思わなかったが、あの人もきっとこうやって自分の住む銀河世界でフォースにバランスをもたらそうとしていたのだ。

 

雑巾みたいにボロボロになったバスタオルと、裁縫箱を取り、暖かいこたつに居心地よく座り、さて銀河系のための地味な仕事に取り掛かる。

「アレクサ、スターウォーズのテーマかけて」

 


John Williams - Fanfare and Prologue (From "Star Wars: The Rise of Skywalker"/Audio Only)

 

 

 

ちらちらと動く糸先を発見して炬燵から黒光りするやんちゃな猫がはい出してくる瞬間は完全にダースベイダーの登場シーンのごとし。